わたしのスピードで

「はぁ~……」

秋山美姫は大きなため息をついた。
それを聞いてサンドバッグを蹴りながら真田美幸が声を掛ける。

「練習は始まったばかりッスよ。もう疲れたんスか?」

秋山は真田の方を見ず、大きく頭を振って答える。

「そうじゃないよ。ただこのままでいいのかな、って」
「それって……」

真田は揺れているサンドバッグを両の手で受け止める。

「それって……どういう意味ッスか?」
「来る日も来る日も格上と当てられて連戦連敗。もうデビューして半年になるのに
 一度も勝った事ないんだよ、私達。それでいいの?って」
「それは……」

それは真田にも判っていた。
半年前、設立されたばかりのDWPのテストを受けて入団した二人。
同時にスカウトされた優香と三人で将来を毎夜のように語り合った。
しかし夢の通りにはいかず、彼女達には厳しい現実が突きつけられていた。

そこへロードワークから戻った優香が道場に帰ってくる。

「美姫~、美幸~。これ見てよ~!」

帰ってくるなり優香は新聞を二人の前に放り投げる。
そこには新女のタッグタイトルの結果が記されていた。
自分達と同時期にデビューした越後がタッグタイトルを奪取した、と。

「……」

三人とも次の句を継げなかった。ただ黙ってベルトを巻いた越後の
写真を眺めていた。

「こらっ、なにサボってるの!」
「あっ、ミミさん」

沈黙を破ったのは今のDWPのエース、ミミ吉原だった。
いつもならなんだかんだと言い訳をしてくる三人が今日に限っては
押し黙ったままなのを怪訝に思ったが、程なく新聞記事を見つける。

「珍しくおとなしいのはこれが原因ね、どれどれ……。
 ふーん、結構無理したのね。この結果で納得させられるのかしら」

吉原は小首を傾げながら呟く。

「ミミさんっ!」
「は、はいっ!?」

いきなり大きな声を出されて、思わず裏返った声で返事をする吉原。
声の主は秋山だった。

「ミミさんっ、私達と越後と何が違うんですか!?
 同じようにデビューして、どこが違うんですか!?」

吉原はしばらく驚いた表情のまま秋山を見ていたが、

「美姫はやっぱりベルト巻きたい?」

いつもの穏やかな口調に戻り尋ねる。

「もちろんです!」
「じゃあさ、今、同じようにベルト巻いたとして……どうするの?」
「そ、それは……」

その問いに秋山は絶句した。優香と真田も困惑していた。
ベルトどころか勝利の味も知らない三人には難しすぎる質問だった。

「みんな少なからずプロレス見てきてるはずなのに、いざ自分が
 その立場に置かれるとわからないものなんだね」

吉原は柔らかく微笑みながら話す。三人は黙ったまま続きを待つ。

「レスラーはいくつも壁を乗り越えて大きくなっていくものよ。
 その姿が説得力を生むし、お客さんも認めてくれるんだよ。
 それはチャンピオンだって例外じゃない」

吉原はそこで言葉を区切り、三人を見渡す。

「三人とも今は負けっぱなしかもしれないけど、ずっとそのまま?
 違うでしょ?実際に戦っていたらわかるはずだよ」

言われてみれば、最初は手も足も出なかったけれど、今は
あわよくば…という所まで追い詰めることも珍しくはない。
三人の表情が変わるのを見て、吉原は続ける。

「みんなちゃんと力はついてるんだよ。今、目の前の壁を越えるのも
 すぐできるはず。そうしたら次の壁が出てくる。最後は」
「チャンピオンを倒しベルトを巻ける、ですね」

秋山の言葉に大きく頷いて、

「そういう事。もちろんそこに辿り着くまでには頑張らないとダメよ」
「ハイッ!優香、美幸、練習よ練習!サボってるヒマなんてないわよ!」
「よっしゃーっ、燃えてきたッスーッ!」
「アハハ!そうね、がんばろー!」

三人は走り出し、三歩進んだところで吉原に振り向き礼をする。

勢い良くランニングに出る三人を見送りながら吉原は一人呟く。

「ベルトを巻いた先は私にはわからない。でも……」

あの子達ならすぐに私を越え、その先まで行ってくれるでしょう。
私が出来なかったことを成し遂げてくれるでしょう。
それまでこの場所を守っていきたいと思う吉原であった。


と、いう訳でようやく三回目です。
どこがリプレイ?と質問を受けたりしたんでちょっとだけ説明を。
一回目は東北地方でテレビ契約、二回目は福島県でサイン会、
そして今回は秋山の信頼が24まで落ち込んだという部分から
書きましたので、一応リプレイと呼べるのではないかと(笑)

まあ拙い文章には変わりありませんが今後ともよろしくお願いします。
では今回はこの辺で。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック