まっさらな未来

夏のある日曜日。

この日、福島県でDWPの所属選手によるサイン会があるとテレビで告知されていた。
小早川の住む場所からさほど遠くない場所で行われるという事もあったし、
何より優香も参加すると発表されていたので、彼女は行ってみることにした。

DWPは福島県を本拠にしている関係上、比較的東北地方では人気がある。
旗揚時からりんごテレビで深夜とはいえ放送があるのも大きいのかもしれない。
そこで地域密着で興行を行うのかと思いきや、この団体は関東・甲信越・北陸へと
どんどん進出していた。500や700人程度の小さな会場なら満員になることも
珍しくはなかった。これはミミ吉原の人気に拠るところが大きい様ではあったが。

次のシリーズ以降では中部・関西と遠征する予定なので、
この団体は全国を行脚するつもりなのだろう。

「地元で大会がないと見に行けないから……」

つまらないな、と小早川は思う。

毎週テレビを追ううちに、彼女はすっかり優香に魅せられていた。
旗揚げから何ヶ月かは経過しているが、
まだまだ新人選手の域を出ない優香ではあったが、
その明るいキャラクター性と飛び技にとても惹かれていた。

優香の試合を生で見たいという欲求は放送を見れば見るほど強くなっていた。
しかし、中学生という身分では隣町ならともかく県外に出ることはむずかしい。
隣の県ならばどうにか許してもらえるかもしれないが、
さすがに関西まで行くことは今の小早川には無理な相談だった。

「会場はここだね……結構人がいるなあ?」

会場となっている公園には、小早川の予想を越える人数が集まっていた。
せいぜい2,30人もいればいい方かな、と考えていたのは彼女の読みが甘いのか
それとも物好きが多いのか、どちらだったのだろうか。

小早川は予想以上の人の多さに慌てて列に並ぶ。
今回は優香の他に秋山と真田もサイン会に参加していた。
列の長さはどこも同じようなもので、均等にファンがついている事を物語っていた。

そうこうしているうちに小早川の番になる。

「ハイッ、ありがとう!これからも頑張ります!」

慣れた手つきで色紙にサインを描き、優香が微笑む。
サインを貰ったことも嬉しかったが、目の前にテレビで見ている選手がいる事で
小早川は興奮していた。

「あ、あのっ!」
「ん、なーに?」
「あの、怖く……ないですか?」

妙な質問に驚いたような優香ではあったが、しばらく考えた後笑って答える。

「目に見えるものはそんなに怖くないからね、大丈夫だよ」

今度は小早川が回答に驚く番である。返事に詰まって固まっていると、

「あはは、気にしないで。とにかく、私頑張るから応援ヨロシクね!」
「あ、は、はい。それはもちろんです!」

しどろもどろに答える小早川を見て、
優香は再びにっこりと微笑むと手を差し出した。
その手を慌てて握り返し、小早川は礼を言って列を離れた。

人ごみから少し離れ、両手で大事そうに色紙を抱え込む。
顔から火が出そうだった。色々と質問は考えていたのに
咄嗟に出たのがあれだとは。
変な子と思われちゃったかなあと考えていると声を掛けられた。

「きみ、プロレスに興味ある?」

その声に振り向き、目に飛び込んできた人物を見て小早川は一歩半後退りした。
奇妙なグリーンのマスクをした男性がそこに立っていた。

「え……ミスターDENSOU?」
「いかにもその通り!DWPの名レフェリーミスターDENSOUとは俺の事だよHAHAHA!」

この妙な人物はDWPマットでレフェリーを務めている人物である。
見た目通りのうさんくさい人物だがレフェリングは若干カウントが遅い事を除けば
定評があった。

「で、きみはプロレスに興味があるのかな?随分と優香に興味があるようだが」
「え……、い、いやあたしはただのファンで」
「ふーん、ホントに?」
「ほ、本当ですよ!だってあたし小さいし力ないし、プロレスなんて……」

それを聞いて緑のマスクマンは再びHAHAHA!と笑うと、

「優香もきみと同じくらいだけどプロレスラーやってるぞ?」
「そ、それは……」

優香とあたしは違う、と答えられなかった。
何が違うのかわからなかったから。

「きみは見たところ地元の子のようだし、興味があるならDWPに来たらいい。
 やらずに後悔するよりやって後悔する方がマシだろ」

返答に詰まっていると、ミスターDENSOUはそう言った。

「あ、は、はい」

返事を聞くとDENSOUは大きく笑って

「やっぱり興味があるんじゃないか!ところできみ、いくつだ?」
「13歳です」
「ふむ、ならばあと2年ある。じっくり考えるといいよ。考えるのはタダだからね」

そう言ってDENSOUは踵を返し、

「今日はサイン会に来てくれてありがとう。気をつけて帰るんだよ」
「うん、どうもありがとう。これからも応援するよ!」

それに入団の事も考える、という言葉は飲み込んだ。
今いうと実現できないような気がしたから。

DENSOUは振り向いて軽く手を挙げる。それに手を振って応える小早川。

「あ、待って!」

帰ろうとする小早川にDENSOUが声をかける。

「ん、なに?」
「きみ、俺のサインはいらないかい?今なら特別に書いてあげるよ」
「いや、いらない。じゃあさよなら!」

にっと笑って再度手を振り、小早川は駆けていった。
その背を見ながらがっくりと肩を落とすミスターDENSOU。

「社長、サイン会は盛況のうちに終わりました」
「ああ、霧子くんすまないな、ほったらかしにして」
「いえ、いつもの事ですから。今、振られた彼女は誰ですか?」
「相変わらず手厳しいね。まあ将来のスター候補をスカウト…って所かな」
「スター候補なら今も居りますが」
「言い方が悪かったかな。将来のスーパースター候補、と言い直そう」

それを聞いて霧子はため息をついた。

「申し上げにくいですが、今の子は……」

言いかけるのを手で制すとミスターDENSOU……DWPの社長は言った。

「霧子くんの目は信用に値するけどね。
 素質すら凌駕するのがプロレスじゃないかね。
 俺は世間の常識ってのを打ち破りたいんだよ」
「それは結構ですが、社長お一人の団体でないことはお忘れなく」
「ああ、気をつけよう」

そんな会話が行われてるとは露知らず、小早川は家路を急ぐ。
まっさらな未来に期待しながら。


さて、間が開きましたがリプレイ(?)の二回目です。
この後はしばらくDWPの事も書いていきたいかな、と思いますがどうなるかは
さっぱり未定です。

レッスルとは関係ないですが世界樹の迷宮2が発売になりました。
ウチも購入したのですが、1がまだ終わっていないので未プレイです。
氷竜と火竜はすぐに逆鱗を出すように!あとこの二つだけなのですが…。
まあ、どうでもいいですね。今日はこんなところです。

この記事へのコメント

2008年02月26日 01:13
あはは(笑)
ミスターDENSOU怪しすぎです(笑)
ばかうけしましたわ。
やられたよ。
2008年02月26日 23:12
そんなに怪しいですかね?(笑)

ゆっくりでも進めていきますんで
良かったらまた見てやって下さい。
コメントありがとうございましたー!

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